写真の町東川賞—2014年東川賞審査講評/審査委員会/過去の受賞者・講評

第30回写真の町東川賞審査講評

写真の町東川賞も今年はいよいよ 30回目という節目の年である。振りかえれば30年という年月には、語り尽くせぬさまざまな出来事があった。社会情勢も30年前と今では大きく様変わりしている。第1回東川町国際写真フェスティバルが開催されたのは1985年。いまだ展示するためのギャラリーも無く東川町農村環境改善センターなど既存の施設を使って展示されたことを聞き及ぶ。3代の町長のもと内容も年ごとに見直され新たなアイデアのもとに改善しながら継続されてきた。途中から高校生向けの写真甲子園も併設され昨年20回目を迎えた。ここ数年、全国でも文化による町作りを行う自治体は増えたが、写真の町東川町は30年を迎えた先達として益々盛んである。

 今年の審査会は、2月の最終週に行われた。この何年かは審査会委員が固定し8名の委員の個性がお互いに理解され、それぞれの意見の食い違いはあっても議論を尽くして決定していくスタイルが東川賞の特徴として際立ってきている。とはいえ、各賞の最終候補者はいずれ劣らぬ逸材のために、二者択一の論理的な理由を主張することは極めて困難である。多数決で決めざるを得ないのだが、8名という偶数のために、意見が真二つに分かれることは珍しいことでは無い。そしてその組み合わせは毎回違う。しかし、その激戦を選び抜かれた今年の受賞者を見れば、まさに30回を記念する展覧会に相応しいラインナップになったと最後に誇れるのだ。

 先ずは国内作家賞。野口里佳氏に決定した。野口氏はこれまでもノミネートされてきたが、今年は最終的にはこれまでの一連の作家活動に対しての評価が集まった。野口氏の独特な世界感は柔らかく拡がっている。これまでの個展や企画展、原美術館での「飛ぶ夢を見た」、国立新美術館での「光」、IZU PHOTO MUSEUM での「光は未来に届く」など、少し引いたスタンスで対象を切り取る構図が特徴的だが、いずれも絶妙な物語性を醸し出す。鳥、動物、昆虫、そして人や太陽の光もロケットの燃焼もプロジェクターの光源も全てが等価で静謐な写真画面を構成する一要因にすぎないと感じさせる。以前に東川で展示をされたことはあったが、今回あらためて受賞されたことは非常に喜ばしい。

 続いて新人作家賞。毎年選ぶ側の姿勢が問われるこの賞が一番の激戦になるのだが、今年は石塚元太良氏に贈られる。受賞対象となった「PIPELINE ICELAND/ALASKA」であるが、2007年に最初のパイプラインの写真集が出版されたときにもノミネートされた。前作では4x5で撮影された風景が今回は8x10で撮影されている。たかだか4インチの差だが、そこには大きな取り扱いの違いがある。撮影されたアイスランドやアラスカの自然の風景。そこに同時に写る長いパイプの線。 人間はどこに暮らしてもエネルギーを確保する必要性があり、その証左としてのライン。人間と自然のシンプルな関係性があぶり出されている。世界中を大型カメラとともに旅しながらのスケール感と勢いは新人作家賞に相応しい。

 特別作家賞は酒井広司氏に決まった。酒井氏もまた長い間ノミネートされ続けてきた一人であ る。長い間「Sight Seeing」というシリーズによって、北海道の原像を探るような風景写真のシリーズで知られる。現在「偶景」と改名されシリーズは続いているが、今年はここに評価が集まった。酒井氏は北海道に生まれ北海道を対象に長年撮影を続けてこられた。その写真のタイトルには、日付とともに緯度経度と思われる数字が記されている。氏にとってその場所は写真に写る光景の、地理的な場所以上でも以下でも無く、その場所そのものなのである。地勢的に、そして光の採集作業のように撮影を繰り返していく酒井氏の姿勢は、北海道にゆかりのある写真家や写真に与えられる特別作家賞にまさに相応しいといえる。

 そして飛彈野数右衛門賞。今年は増山たづ子氏に贈られることに決まった。増山氏は8年前にすでに他界している。氏は岐阜県徳山村に生まれ、徳山ダムの建設計画から建設にかけてダム下に沈むふるさとを、農業と民宿の経営のかたわら、生涯をかけてコンパクトカメラで記録した。 10 万カットのネガと600冊に及ぶアルバム。そこに写された写真と、その写真の量を見るものは “写真”という存在についての価値観が揺さぶられる。一人の女性が積み重ねた日常。写真行為とは何なのかという一つの答えがそこにはある。日常の積み重ねの写真が大きな意味や強さを持ちえた。増山氏の業績は飛彈野氏を冠とした賞として顕彰することに最も相応しいとの結論に至った。

 最後になるが、本年度の海外作家賞はフィンランドのヨルマ・プラーネン氏に贈られることになった。近年日本でもヘルシンキスクールと呼ばれる写真家達が紹介されはじめたが、ヨルマ・プラ ーネン氏はヘルシンキ芸術デザイン大学(現アールト大学)で教え、その若い世代の写真家育成に貢献してこられた。氏の作品については、先住民族や様々な言語の写真を風景の中に重ね撮影したものや、絵画や写真の表面の反射を撮影したものである。肖像画は歴史や権威を意味するものであり、また言語も文化的な差異を示すものである。写真の効果効用を批判的に見据えた上で用い、引用された絵画や写真が孕む歴史や記憶に関するメタファーとなっている。美しくも深い意味を湛えた氏の作品は海外作家賞として申し分ない。

写真の町東川賞審査会委員   佐藤時啓

第30回東川賞受賞作家

海外作家賞
ヨルマ・プラーネン
国内作家賞
野口里佳
新人作家賞
石塚元太良
特別作家賞
酒井広司
飛彈野数右衛門賞
増山たづ子

第30回審査会委員

  • 浅葉克己[あさば·かつみ]アートディレクター
  • 笠原美智子[かさはら·みちこ]写真評論家
  • 楠本亜紀[くすもと·あき]写真評論家·キュレーター
  • 佐藤時啓[さとう·ときひろ]写真家
  • 野町和嘉[のまち·かずよし]写真家
  • 平野啓一郎[ひらの·けいいちろう]作家
  • 光田由里[みつだ・ゆり]美術評論家
  • 山崎 博[やまざき·ひろし]写真家
<敬称略/五十音順>

過去の講評

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