写真の町東川賞—2017年東川賞審査講評/審査委員会/過去の受賞者・講評

第33回写真の町東川賞審査講評

第33回写真の町東川賞審査会は、2017年2月21日に開催された。今年ノミネートされたのは、国内作家賞48人、新人作家賞62人、特別作家賞22人、飛彈野数右衛門賞26人、海外作家賞21人。より多くの方々からノミネートしていただこうと、推薦者リストの拡充をすすめており、一昨年計106人、昨年計161人、今年計179人と増加している。8人全員の審査委員が、例年どおり、午前中に集合、写真集やポートフォリオなど、膨大な作品をじっくりと閲覧し、午後から審査に入った。

 国内作家賞は、本橋成一氏に決定した。初期の未発表作「雄冬」「与論」から、代表作「炭鉱〈ヤマ〉」「上野駅」「屠場〈とば〉」「藝能東西」「サーカス」「チェルノブイリ」、最新作の「アラヤシキ」までの、9シリーズを編んだ『在り処』をはじめ、『築地魚河岸ひとの町』『上野駅の幕間 そして、青函連絡船』といった作品が浮かび上がらせる市井の人々の姿は、本橋氏の一貫した丹念な仕事を物語るものでもある。時を経てますます意義深いものとなるモノクロームの表現は、「写真史上、あるいは写真表現上、未来に意味を残すことのできる作品」という賞の規定にも、じつにふさわしい。

 新人作家賞は、石川竜一、片山真理、菊池智子、野村佐紀子、林典子、吉野英理香の各氏が最終段階まで残り、野村佐紀子氏に決定した。先行する『黒闇』シリーズ等のイメージを用いて、はじめてソラリゼーションで制作した『もうひとつの黒闇』は、写真集では黒い紙に黒のインクで印刷という試みがなされている。独自の身体表現と繊細なまなざしが注目されてきた野村氏は、国内作家賞の候補にあがっていたが、こうした実験性に満ちた、刺激的な試みは、新人作家賞がより適しているのではないかという判断から、今回の決定となった。

 特別作家賞は、北海道稚内市生まれ、札幌市出身の岡田敦氏に決定した。学生時代に、故郷の札幌近郊で撮影した友人や馬、風景などの被写体を、最新のデジタル技術と現在の感性で写真集にまとめた『1999』。2011年から撮影を続けている、根室の無人島であるユルリ島の風景や野生化した馬たちを追ったシリーズ「ユルリ島の野生馬」。記録性を超えた視点から照らし出された生命の在りようは、他のシリーズにも共通するものであり、出身地北海道での作品は、岡田氏の作品世界をいっそう豊かなものにしている。

 「長年にわたり地域の人・自然・文化などを撮り続け、地域に対する貢献が認められる者」を対象とする飛彈野数右衛門賞は、小関与四郎氏に決定した。千葉県の旧栄村(現・匝瑳市)に生まれ、自転車店に6年間年季奉公の後、1967年に写真店を開き、経営をしながら写真を撮り続けてきた小関氏は、砂浜が延々と続く遠浅の海での、オッペシと呼ばれる漁婦、フナガタと呼ばれる漁夫の過酷な労働をとらえた『九十九里浜』、『成田国際空港』、『国鉄・蒸気機関区の記録』、『クジラ解体』など、そこに暮らす写真家でなければ撮れない光景を、ドキュメントし続けている。

  海外作家賞は、対象国のポーランドから、アンナ・オルオーヴスカ氏が選ばれた。政治的な大きな変動を経験し、映像表現の伝統に育まれたポーランドの作品は、とても多様な厚みと広がりがあり、楠本亜紀審査委員の調査に基づいた説明も踏まえたうえで、審査に移った。オルオーヴスカ氏は若手作家を代表するひとりで、見る者のイマジネーションを誘う作品は、国際的にも脚光を浴びている。最近では、見えないもののテーマをさらに展開し、写真の可視性を問いかける作品も制作している。

 今回の審査では、満場一致や大きな票差で決定された賞はなく、円卓を囲み、投票を繰り返し、作品内容から、賞の性質まで、多角的な意見交換と議論を重ねながら、各賞が決定された。審査委員それぞれの意見の食い違いはあっても、議論を尽くして決定していくのが、東川賞審査会の伝統的なスタイルだが、審査委員の3人が昨年度で退任、新たに3人が就任した今年度も、このスタイルは引き継がれている。そして審査会は、「写真文化首都」にふさわしい、素晴らしい作家たちを選出できたと自負している。

 このような、変化しつつ伝統を継承していく在りようは、まさに東川町の特徴でもあるように思われる。東川賞もまた、1985年の「写真の町宣言」から30余年、一歩一歩積み重ねた町の人たちの努力と、そうした趣旨に共感した世界中の多くの人たちの共感の上に成り立っていることを実感する。「おいしい水」「うまい空気」「豊かな大地」という素晴らしい環境を誇りにする東川町は、「この小さな町で世界中の写真に出逢えるように、この小さな町で世界中の人々と触れ合えるように、この小さな町で世界中の笑顔が溢れるように」というビジョンを現実化する魅力に満ちている。受賞した素晴らしい作家たちを加え、東川町の人々と共に、また新たな一歩を踏み出していきたい。

写真の町東川賞審査会委員 上野 修

第33回東川賞受賞作家

海外作家賞
アンナ・オルオーヴスカ
国内作家賞
本橋成一
新人作家賞
野村佐紀子
特別作家賞
岡田敦
飛彈野数右衛門賞
小関与四郎

第33回審査会委員

  • 浅葉克己[あさば·かつみ]アートディレクター
  • 上野 修[うえの・おさむ]写真評論家
  • 北野 謙[きたの·けん]写真家
  • 楠本亜紀[くすもと·あき]写真評論家·キュレーター
  • 中村征夫[なかむら·いくお]写真家
  • 丹羽晴美[にわ·はるみ]学芸員・写真論
  • 平野啓一郎[ひらの·けいいちろう]作家
  • 光田由里[みつだ・ゆり]美術評論家
<敬称略/五十音順>

過去の講評

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