お知らせ
GAKKOTEN2022レビュー結果発表
2019年よりスタートした屋外展示「GAKKOTEN~大学・専門学校屋外写真展~」。せんとぴゅあの芝生の上に広々と設置されており、訪れる方々にも大変好評です。
GAKKOTENでは、学生のみなさんにとってさらなる写真表現の向上につなげてもらうべく「写真の町東川賞」の歴代受賞者による作品講評の機会を設け、レビューコメントをお寄せいただいています。
今年は3名のレビュアーから、各2名ずつ選出いただきましたので作品とともにご紹介します。どうぞご覧ください。
<GAKKOTEN参加校>
大阪芸術大学芸術学部写真学科、九州産業大学、日本写真芸術専門学校、日本大学芸術学部写真学科(申請順※)
<レビュアー>
今岡昌子(第23回東川賞新人作家賞)
野口里佳(第30回東川賞国内作家賞)
中野正貴(第36回東川賞飛彈野数右衛門賞)
<レビュー結果>
【今岡昌子・選】
【選出作品1】
「Slough.」KANA SUN(日本写真芸術専門学校)
【選出理由】
フォトグラムによる技法下、印画上で横たわり眠りに入る人の痕跡について、過ぎ去った時間により現れた「自我」と観念的に解釈された点、よく思案されており個性が感じられました。「自我」の目覚めを眠りから発⽣させている文脈もちょっと面白く、印象に残りました。
被写体の⼈たちが無意識状態であることは、より自由度を付与しているようにも感じ取れましたし、実験終了後にタイマーで起こされたことが矛盾と言及されていましたので、開放感への憧憬、閉塞感からの脱却が原動力と個人的に思えました。
さらに、昨今の社会背景との関連性を帯びると多方向への広がりが出てきそうです。サイノアタイプによる写真の印象は、同世代の⼈を描くことで同世代の⼈には伝わる個性が、他世代にどうかな伝わるかなあという思いもあり、「自我」を描くさらなる工夫により、作品がより良くなるような気もいたしました。
【選出理由】
フェリーに乗って島か半島かどこか遠くへ、時を遡るような土地との出会い。
旅の途中、餌を求めて寄ってくるウミネコとの距離がとても近く、生物としてイキイキしていて、反復的に描かれ、瞬時視覚に飛び込んできました。その合間に、土地の断片がさりげなく、時間と場所が特定できないけれどなぜか近しく、ひなびた景色のシンプルさが味わい深く、存在感を放っております。
そこに、植野さんのみずみずしいタッチと構成力の良さが加わり、総合力として、写真のチカラとなっているように思えました。取材時間が限定されているようにも見えた?のですが、写真表現のさらなる奥行きを追求されることにより、さらに良くなるように思えました。
【野口里佳・選】
【選出作品1】
「Who he was」高田慎太郎(大阪芸術大学)
【選出理由】
自分は誰なのか、簡単な質問のようでいて、答えようとするとうまく答えられない。だから他の人のことのこととなったらなおさら分からない。それを的確に表現している良いタイトルだと思いました。写真を通して誰かを知ろうとする、それを5枚という限られた点数の中でうまく表現していると思います。考えているうちにふと空を見上げたような、星空の写真が入っているのも良いです。こういう写真が入ってくると作品に広がりが出てきます。
もっと撮影を重ねて、このシリーズが完成したところをぜひ見てみたいと思いました。
【選出作品2】
「記憶の片隅」吉田鐘一(日本写真芸術専門学校)
【選出理由】
あまり注目されない、あるいは注目したくない歴史に焦点を当てて、淡々と撮影している姿勢がとても良いと思いました。日本全国にこういう場所があるということは、知識の上では知っていても、ただそれだけでした。それを写真で見せられると、ああ事実だったのだと急に身近な事件になる。とても大切な写真の仕事だと思いました。
この作品はテキストがとても大切だと思うので、テキストの中に自分がこのことに興味を持ったきっかけなど、個人の視点が入ってくると作品にさらに深みが出てくるのではないかと思います。
【中野正貴・選】
【選出作品1】
「おばーの沖縄戦」宮城一郎(九州産業大学)
【選出理由】
写真のテーマへのアプローチとしては非常に正攻法な構成で特別な新しさはないですが、一枚一枚の写真が力強く説得力があります。
沖縄戦没者慰霊碑の親族の名を指で探る祖母の手や石碑に写り込んだそのおぼろげな姿から、77年前の沖縄の記憶を辿る祖母の気持ちが窺い知れ、記憶を共有することで時空を超えた沖縄へと想いを馳せる作者の心情も同時に見えてきます。記憶をモニュメントに写り込む祖母の像で語らせているのは適切です。
家族とは言えど、他者の記憶を写真という形にするのはなかなかに難しいのですが、祖母の記憶を伝承しようという孫の愛情がなせる技で、その温かみがちゃんと写真の雰囲気にも出ていると感じました。良い写真です。
同大学の安部捺美さんの「憧憬の青に焦がれる」のポートレート写真にも非凡な煌めきを感じましたが、如何せん展示枚数が多く青という青春色にこだわりイメージを拡大したことで逆に全体の印象が散漫になってしまったのがとても残念でした。
【選出作品2】
「すべてが始まる前に」李 河(日本写真芸術専門学校)
【選出理由】
取り組んでいる昏睡症というテーマにまず興味を惹かれました。
混迷する時代の中で成長する若い人達の間では、社会環境や対人との距離感等の問題から様々な意識障害が起こりやすくなっています。自分の経験の有無に関わらず、そういった心の病を通して現代社会の問題や自分の存在確認を写真制作を通して見詰め直していくのは非常に大事な作業だと思います。
さて、では今回見せて頂いた写真でその問題意識がどこまで表現できているかというと、少し伝わり難い部分があると感じました。
被写体となる人に、言うなれば疑似体験的にその感覚を再現してもらった瞬間を撮影するという試みですがが、訴えかけてくるものが少し弱いと感じました。
本当にその症状に苦しんでいる人達を探して撮るとか、撮影する環境はこの場所で良いのか?といった問い掛けを絶えず自分に繰り返し表現方法を考えることが必要です。
今後も継続して欲しい題材なので、奨励の意味を込めて選ばせて貰いました。
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選出された学生のみなさま、おめでとうございました!
※「GAKKOTEN」には国際写真フェスティバルへのご協賛各校より出展希望を募り、自薦・他薦によって出展いただいています。