AWARDS東川賞

第39回写真の町東川賞 受賞者

海外作家賞

アストリッド・ヤーンセン
Astrid JAHNSEN
スペイン・マドリード在住

国内作家賞

原 美樹子
HARA Mikiko
神奈川県在住

新人作家賞

藤岡亜弥
FUJIOKA Aya
広島県在住

特別作家賞

石川直樹
ISHIKAWA Naoki
東京都在住

飛彈野数右衛門賞

広田尚敬
HIROTA Naotaka
神奈川県在住

第39回審査会委員

安  珠[あんじゅ]写真家
上野 修[うえの・おさむ]写真評論家
神山亮子[かみやま・りょうこ]学芸員、戦後日本美術史研究
北野 謙[きたの·けん]写真家
倉石信乃[くらいし·しの]詩人・写真評論
柴崎友香[しばさき・ともか]小説家
丹羽晴美[にわ·はるみ]学芸員・写真論
原 耕一[はら・こういち]アートディレクター

<敬称略/五十音順>

第39回写真の町東川賞審査講評

第39回写真の町東川賞審査会は、2023年2月22日に開催された。今年ノミネートされたのは、国内作家賞51名、新人作家賞59名、特別作家賞23名、飛彈野数右衛門賞45名、海外作家賞12名。例年どおり、午前中は写真集や資料をじっくりと閲覧し、午後から合計171名の作家より5つの賞を選ぶ審査に入った。今年は審査委員8名のうち2名が欠席し、欠席者が事前に推挙した候補者を審査に反映させつつ進行していった。

国内作家賞は、最終段階で5名に絞り込まれ、議論と投票を繰り返した結果、僅差で原美樹子氏に決定した。スナップショットに身体を委ね、瞬間を育んでいく原氏の表現は、いっけん静かでオーソドックスなものにも見えるが、議論しつつ写真集『Small Myths』を繰り返し閲覧するなかで、徐々に作品の力が満ち溢れていったように感じられた。原氏は、寡作ながら毎年の審査で注目されてきた写真家でもある。ゆっくりと波紋のように広がり続ける作品の力が、今回の受賞に結実したと考えることもできるだろう。

新人作家賞は、赤鹿麻耶、石川竜一、田川基成、中井菜央、西野壮平、藤岡亜弥の各氏が残り、最終段階で石川竜一と藤岡亜弥、両氏の一騎打ちとなった。投票を繰り返し、議論を重ねたが、票がきれいに割れたままの状態となり、休憩を挟み、再度審査を進めた結果、藤岡亜弥氏が選ばれた。美術館・ギャラリーでの個展・企画展や出版はもちろん、時にソーシャルメディアなども活用しつつ、実直に自作を問い返しつつ思考を深めていく藤岡氏のしなやかなスタンスが、議論の過程でより鮮明に浮かび上がり、決め手となったといえよう。

特別作家賞に選ばれたのは、写真集『SAKHALIN』や『知床半島』などで北の地をテーマとした作品を発表すると同時に、「写真ゼロ番地 知床」のプロジェクトに関わり、写真展、ワークショップ、トークショーなどの活動を継続している石川直樹氏である。石川氏は、第25回写真の町東川賞・新人作家賞の受賞者でもあり、周知のように、類例のないフットワークで世界中のあらゆる場所から日常までを撮り続けている写真家である。今回の選出は、移動し続けることと地に足をつけた活動の稀有な両立を照らし出すものでもあるだろう。

飛彈野数右衛門賞には、現代鉄道写真のパイオニアであり、鉄道の魅力を多角的に表現し続けてきた広田尚敬氏に決定した。日本における鉄道は、地域という概念と切り離せない深い関連がある。飛彈野数右衛門賞の規定には「長年にわたり地域の人・自然・文化などを撮り続け、地域に対する貢献が認められる者」とある。広田氏が体現してきた鉄道写真の厚みと広がりを、賞の規定に重ねてみると、違和感なくぴったりと合致するではないか。2010年に新設された飛彈野数右衛門賞に、また新たなページが刻まれたことを喜びたい。

海外作家賞は、菅沼比呂志氏の調査に基づいた丁寧な説明を踏まえたうえで審査に移り、対象国のペルーから、アストリッド・ヤーンセン氏が選ばれた。百科事典、新聞、雑誌、アルバムなどを丹念に見返し、ジェンダーに偏ったイメージの用法を再認識するために撮影するヤーンセン氏の手法は、きわめて今日的な問いを提起している。様々な言説の背後にあるイデオロギーを露わにし、記憶を批評へと変容させていく一連の作品が高く評価された。

コロナ禍でのマスクをつけての審査も、今年で3年目となった。とはいえ、3月中旬にはマスク着用が個人判断となり、ゴールデンウィーク明けの5月上旬には新型コロナウイルスの感染症法上位置づけが5類へ移行することが決定している。夏に開催される東川町国際写真フェスティバルでは、感染症対策が大幅に緩和され、以前のようなイベントが実現されることだろう。文化的な活動は不要不急ではないという東川町の信念によって、コロナ禍においても東川賞と東川町国際写真フェスティバルがしっかりと継続されたからこそ、今年の夏があることを忘れてはなるまい。その背景にある、東川町の人々の日常における多大な努力と共感に、改めて深く感謝したい。

写真の町東川賞審査会委員 上野 修