AWARDS東川賞
第40回写真の町東川賞 受賞者
海外作家賞
国内作家賞
新人作家賞
特別作家賞
飛彈野数右衛門賞
第40回審査会委員
安 珠[あんじゅ]写真家
上野 修[うえの・おさむ]写真評論家
神山亮子[かみやま・りょうこ]学芸員・戦後日本美術史研究
北野 謙[きたの・けん]写真家
小原真史[こはら・まさし]キュレーター・東京工芸大学准教授
柴崎友香[しばさき・ともか]小説家
丹羽晴美[にわ・はるみ]学芸員・写真論
原 耕一[はら・こういち]アートディレクター
<敬称略/五十音順>
第40回写真の町東川賞審査講評
第40回写真の町東川賞審査会は、2024年2月21日に開催された。今年ノミネートされたのは、国内作家賞57名、新人作家賞64名、特別作家賞24名、飛彈野数右衛門賞51名、海外作家賞13名。例年どおり、午前中は写真集や資料をじっくりと閲覧し、午後から審査委員8名が合計182名の作家より5つの賞を選ぶ審査に入った。
国内作家賞は、沖縄を拠点に精力的な制作活動を続ける石川真生氏に決定した。初期からの主要な作品をはじめ、2014年から取り組んでいる「大琉球写真絵巻」シリーズの新作を中心に展示された東京オペラシティ アートギャラリーでの展覧会は、被写体との信頼関係を育みつつ展開される創作写真の独創性を照らし出すものでもあった。初期から現在にいたるまで、石川氏の写真表現に一貫しているのは、展覧会タイトルにもなっている「私に何ができるか」という明確な問いである。こうした独創性と一貫性の稀有な在りようが大きく評価された。
新人作家賞は、金川晋吾、菅実花、鈴木のぞみ、田口和奈、西野壮平、吉田志穂の各氏に絞り込まれた後、最終段階で金川晋吾、菅実花、西野壮平の各氏が残り、最終的に金川晋吾氏が選ばれた。失踪を繰り返す父親や20年以上消息不明だった伯母と、写真や文章で細やかに関わっていく金川氏の作品は、従来的な見る/見られる関係、撮る/撮られる関係を静かに揺さぶるものでもある。いっそう深みを増しつつあるその問いかけと、そこから生まれる写真表現の新たな可能性が決め手となったといえよう。
特別作家賞には、北海道101集団撮影行動が選ばれた。北海道101集団撮影行動とは、全日本学生写真連盟が1968年から77年の間に行った、のべ600人以上ともいわれる大学生たちが参加した匿名的な活動である。写真集にも展覧会にもまとまらず未完のままになっていたが、近年、写真や資料の収集、保管が進んでいることから、今回の受賞となった。特別作家賞の規定には「北海道在住または出身の作家、もしくは、北海道をテーマ・被写体とした作品を撮った作家」とある。ここで自明となっている作家とは、はたしてどのような存在なのか。北海道101集団撮影行動の受賞は、半世紀を隔て、この問いを現在に投げかけることにもなるに違いない。
飛彈野数右衛門賞は、北井一夫氏に決定した。村や町など普通の人々の暮らしと日常の風景を撮り続けてきた北井氏の展開は、「長年にわたり地域の人・自然・文化などを撮り続け」た仕事を対象とした同賞の規定にぴったりと合致するものである。1983年から1987年にかけて撮影された「フナバシ ストーリー」の、撮影された地である船橋市での展示は、北井氏の写真がかけがえのない船橋市民の記録と記憶となっていることを浮かび上がらせるものでもあった。これは同賞のもうひとつの規定、「地域に対する貢献」を示してあまりあるものだろう。
海外作家賞は、菊田樹子氏の調査に基づいた丁寧な説明を踏まえたうえで審査に移り、対象国のフランスから、ヴァサンタ・ヨガナンタン氏が選ばれた。ヨガナンタン氏は、古代インドの大⻑編叙事詩『ラーマーヤナ』を現代的に再話、各章ごとに1冊ずつ写真集化する⻑期プロジェクト「A Myth of Two Souls」を展開している。写真だけでなく、イラストレーション、インドの伝統的な着色、土地固有のイメージなどを織り交ぜた表現が高く評価された。
2020年の審査会後に深刻化していったコロナ禍も一区切りつき、ようやく例年どおりに戻った今年の審査会は、くしくも40回目の節目となる審査会となった。40年という年月は歴史と伝統という言葉で呼ぶに十分な長さだと思うが、その歴史と伝統は、絶えざる革新によって育まれてきたものでもある。さらなる発展に向けて、東川賞はどう革新していくべきか。今年の審査には、多かれ少なかれそのような思いが反映しているように思う。1985年の「写真の町宣言」から、2014年の「写真文化首都宣言」を経て現在に至るまで、その趣旨に共感した町の人々の多大な努力と、世界の人々の共感の力に導かれながら、新たな一歩を踏み出していきたい。
写真の町東川賞審査会委員 上野 修