AWARDS東川賞

第42回写真の町東川賞 受賞者

海外作家賞

マルティナ・ホーグランド・イヴァノヴ
Martina HOOGLAND IVANOW
スウェーデン王国・ストックホルム在住

国内作家賞

伊奈 英次
INA Eiji
神奈川県在住

新人作家賞

林 典子
HAYASHI Noriko
東京都在住

特別作家賞

中西 敏貴
NAKANISHI Toshiki
北海道在住

飛彈野数右衛門賞

田川 基成
TAGAWA Motonari
福岡県在住

第42回審査会委員

安  珠[あんじゅ]写真家
上野 修[うえの・おさむ]写真評論家
神山亮子[かみやま・りょうこ]学芸員・戦後日本美術史研究
北野 謙[きたの・けん]写真家
小原真史[こはら・まさし]キュレーター・写真史
柴崎友香[しばさき・ともか]小説家
丹羽晴美[にわ・はるみ]学芸員・写真論
原 耕一[はら・こういち]アートディレクター

<敬称略/五十音順>

第42回写真の町東川賞審査講評

第42回写真の町東川賞審査会は、2026年2月26日に開催された。今年ノミネートされたのは、国内作家賞53名、新人作家賞57名、特別作家賞22名、飛彈野数右衛門賞45名、海外作家賞12名。午前中から写真集や資料を検討したが、例年より作家と作品が増加したため、昼食を短縮するなど時間をやりくりして閲覧時間を長めに確保しつつ、午後から審査委員8名が合計158名(延べ189名)の作家より5つの賞を選ぶ審査に入った。

国内作家賞は、最終段階で7名に絞り込まれた。甲乙つけ難い、異なった魅力を持つ作家が並び、非常に難しい選択になるのは毎年の光景だが、今年は例年にも増して、さまざまな観点から議論が深まり、投票結果が二転三転していった。最終的に激戦を制し選ばれたのは、伊奈英次氏である。昨年出版された写真集『ZONE』は、1980年代の作業を最新の技術でアップデートした作品である。奇しくも「ZONE」 は、伊奈氏が第4回(1988年)東川賞新人作家賞を受賞した作品でもある。この展開は、まさに早くて遅く、その遅さゆえに今日的であるという、写真というメディウムの特性を体現したものといえるだろう。審査を 進めるうちに、ふたつの「ZONE」の間で展開されてきた見ることの探求が鮮明に浮かび上がり、決め手となった。

新人作家賞は、岡部桃、フジモリメグミ、林典子、吉江淳の各氏に絞り込まれ、最終的に林典子氏に決定した。林氏は、ドキュメンタリー写真家として、ジェンダーと記憶をテーマに、きめ細かな取材を積み重ねてきた。近年は日本と朝鮮民主主義人民共和国の歴史的関係における個人の記憶と場所の概念を探究する長期プロジェクトに取り組むなど、着実に厚みを増している作品が高く評価された。ドキュメンタリー写真がいっそう困難になりつつある今の時代において、林氏の仕事の意義は限りなく大きい。

特別作家賞は、一度目の投票で圧倒的な多数を獲得した中西敏貴氏が選ばれた。1989年頃から北海道に通い、2012年に美瑛町へ移住して、北海道という土地に向き合い続けてきた中西氏にとって、北海道という土地は、たんなるモチーフではなく、暮らす場所であり、思索する場所であり、写真表現を切り拓いていく場所である。「人の営みや制度の痕跡、そして、それを形づくってきた社会の構造」にまなざしを向けてきたと語る、中西氏の写真表現のスケールの大きさと完成度の高さは特筆すべきものだろう。

ノミネート数の増加からもうかがわれるように、第26回(2010年)に新設された飛彈野数右衛門賞も、独自の伝統ある賞に成長してきた。今年も、賞の性質の議論とともに審査が進行し、田川基成氏が選ばれた。同賞の受賞者としては最年少になるが、時間をかけて丹念に土地と記憶、歴史、文化、信仰などにアプローチしていくスタンス、とりわけ、長崎県の離島出身のルーツから展開したシリーズが大きく評価された。「長年にわたり地域の人・自然・文化などを撮り続け、地域に対する貢献が認められる者」という規定に、また新たな広がりが生まれたことを喜びたい。

海外作家賞は 、菊田樹子氏の調査に基づいた丁寧な説明を踏まえたうえで審査に移り、対象国のスウェーデンから、マルティナ・ホーグランド・イヴァノヴ氏が選ばれた。被写体が何であるか明確にわからな い抽象的な視覚言語、物語性を帯びたイメージ構成、そして見る者に解釈の余白を残す詩的なアプローチは、人間とは何かという普遍的な問いを投げかける。フィクションとドキュメンタリーの境界を横断しなが ら、生命、時間、記憶、不在などを扱った作品は、写真表現の可能性を照らし出すものでもある。

はじめに述べたように、今年の審査は、ノミネートされた作家の層が厚くなり、作品の幅もぐっと広がったことが実感された。これは東川賞が積み重ねてきた歴史が支持され、その未来が期待されている証でもあるだろう。われわれも、その期待に応えるべく、いっそう集中し、悩み、議論を尽くして、審査に取り組んでいる。いうまでもなく、このような豊かな場は、東川町の人々の多大な努力と共感があってはじめて成り立っているものである。この素晴らしい環境に、あらためて深く感謝したい。

 

写真の町東川賞審査会委員 上野 修