AWARDS東川賞

第38回写真の町東川賞 受賞者

海外作家賞

ハ・ダオ
HA Dao
ベトナム社会主義共和国・ハノイ在住

国内作家賞

鷹野隆大
TAKANO Ryudai
東京都在住

新人作家賞

笹岡啓子
SASAOKA Keiko
東京都在住

特別作家賞

エレナ・トゥタッチコワ
Elena TUTATCHIKOVA
京都府在住

飛彈野数右衛門賞

宮崎 学
MIYAZAKI Manabu
長野県在住

第38回審査会委員

安  珠[あんじゅ]写真家
上野 修[うえの・おさむ]写真評論家
神山亮子[かみやま・りょうこ]学芸員、戦後日本美術史
北野 謙[きたの·けん]写真家
倉石信乃[くらいし·しの]詩人・写真評論
柴崎友香[しばさき・ともか]小説家
丹羽晴美[にわ·はるみ]学芸員・写真論
原 耕一[はら・こういち]アートディレクター

<敬称略/五十音順>

第38回写真の町東川賞審査講評

第38回写真の町東川賞審査会は、2022年3月2日に開催された。今年ノミネートされたのは、国内作家賞62名、新人作家賞73名、特別作家賞25名、飛彈野数右衛門賞38名、海外作家賞12名。例年どおり、午前中は写真集や資料をじっくりと閲覧し、午後から、審査委員8名が、合計169名の作家より5つの賞を選ぶ審査に入った。

国内作家賞は、最終段階で5名に絞り込まれた。甲乙つけ難い、まるで異なった表現が最終段階に残り、審査委員が悩みに悩むのは毎年の光景でもある。丁寧に議論と投票を繰り返した結果、鷹野隆大氏に決定した。毎日撮るから「毎日写真」という明快な行為から展開されていく複雑な批評性は、独創的かつ魅力的だ。初の大規模な個展となる『毎日写真1999-2021』や、写文集『毎日写真』における、制度化された眼差しへの問いかけ、写真という媒体をめぐるしなやかな思考が大きく評価された。

新人作家賞は、今年も混戦かつ激戦となった。議論と投票を繰り返し、最終的に、菅実花、笹岡啓子、林典子の三つ巴の接戦となり、笹岡啓子氏が選ばれた。2014年以降の三陸、福島の被災地域を中心に、日本各地の海岸線や海の記憶を持つさまざまな地域を交え、順次刊行されている小冊子シリーズ『SHORELINE』、2011年以後、東北地域を幾度も訪ね、撮影を続けた『Remembrance 三陸、福島 2011-2014』における、まさに写真ならではの強度に満ちた作品の説得力が評価された。

特別作家賞には、2014年8月に東川町国際写真フェスティバルに参加した後、はじめて知床を訪れ、それ以来、さまざまなかたちで知床におけるフィールドワークを続けてきたエレナ・トゥタッチコワ氏が選ばれた。二人展『Land and Beyond|大地の声をたどる』などに結実した、身体と思考と土地との関わりの重層的なプロセス、そこから広がっていく表現は、北海道をテーマ・被写体とした作品を対象とする特別作家賞の規定にふさわしいものであるといえよう。

飛彈野数右衛門賞に選ばれたのは、中央アルプスの麓である長野県上伊那郡南向村(現・中川村)に生まれ、自然豊かな環境を生かしながら、野生動物の撮影において独創的な写真表現を切り拓いてきた、宮崎学氏である。展覧会「イマドキの野生動物」では、作家活動の軌跡と作品の社会性が浮かび上がっていた。長年にわたり地域を撮り続けた作品を対象とする飛彈野数右衛門賞に、また新たな広がりが生まれたことを喜びたい。

海外作家賞は、菅沼比呂志氏の入念な調査に基づいた説明を踏まえたうえで審査に移り、対象国のベトナムから、ハ・ダオ氏が選ばれた。カメラを使って世界と自分自身を定義する ジェンダー、アイデンティティといった概念、文化の変化について考察している『The Mirror』『Forget Me Not』『All Things Considered』といった一連の作品、キュレーターでもある意欲的な活動がトータルに評価された。

緊急事態宣言下での開催となった昨年に続き、今年は、まん延防止等重点措置下の開催となり、感染症対策として、マスクをつけての審査となった。1985年に「写真の町宣言」、2014年に「写真文化首都宣言」というマニフェストを掲げた東川町の、文化的な活動は不要不急ではないという力強い姿勢によって、コロナ禍においても例年同様の審査を行うことができた。東川町国際写真フェスティバルにおけるセレモニーやイベントが毎年のクライマックスとなるが、それが可能になっているのは、東川町の人々の日常における多大な努力と共感があってのことである。このことを胸に深く刻みつつ、心より感謝申し上げたい。

 

写真の町東川賞審査会委員 上野 修