AWARDS東川賞

第35回写真の町東川賞 受賞者

海外作家賞

ローズマリー・ラング
Rosemary LAING
オーストラリア・シドニー在住

国内作家賞

志賀理江子
SHIGA Lieko
宮城県在住

新人作家賞

片山真理
KATAYAMA Mari
群馬県在住

特別作家賞

奥山淳志
OKUYAMA Atsushi
岩手県在住

飛彈野数右衛門賞

太田順一
OTA Junichi
奈良県在住

第35回審査会委員

上野 修[うえの・おさむ]写真評論家
北野 謙[きたの·けん]写真家
倉石信乃[くらいし·しの]詩人・写真評論
柴崎友香[しばさき・ともか]小説家
中村征夫[なかむら·いくお]写真家
丹羽晴美[にわ·はるみ]学芸員・写真論
原 耕一[はら・こういち]アートディレクター
光田由里[みつだ・ゆり]美術評論家

<敬称略/五十音順>

第35回写真の町東川賞審査講評

第35回写真の町東川賞審査会は、2019年2月14日に開催された。今年ノミネートされたのは、国内作家賞52名、新人作家賞69名、特別作家賞24名、飛彈野数右衛門賞39名、海外作家賞18名。合計187名の作家から、5つの賞を選ぶ審査となった。幸いなことに、推薦者の方々の協力によって、対象となる作家や作品も増え続けており、8人全員の審査委員が、写真集や資料などを黙々と閲覧する午前中の光景も、年々、緊張感が増している。

その緊張感を反映するかのように、国内作家賞の審査は、これまでになく難航した。議論と投票を幾度も幾度も繰り返したものの、票がきれいに割れ、結論が出ない。一時中断を挟み、他の賞の審査に移り、ふたたび国内作家賞の議論と投票を繰り返し、選ばれたのが、志賀理江子氏である。2012年の新人作家賞受賞から、いっそう強度を増している「ブラインドデート」展など一連の展開が注目された。東京都写真美術館での大規模個展開催を前にしての決定は異例ともいえるが、生と死とイメージを根源的に掘り下げ、写真という枠組みを揺さぶり、超えていく展開への期待の大きさを物語るものでもあるだろう。

毎年、混戦、激戦となっている新人作家賞は、最終段階で、岩根愛、片山真理の両氏の一騎打ちとなり、片山氏に決定した。片山氏も、初作品集の出版を前にしての、近年の発表活動が評価されての受賞となった。写真をはじめとした、さまざまな表現を自在に活用しながら、自らの身体と世界との関係を開いていく作品の在りようは、従来の写真表現の領域を再定義していくような問いかけを孕んでおり、刺激的だ。

特別作家賞は、北海道で自給自足の生活を営んでいた井上弁造氏を、およそ20年にわたって撮り続けた、奥山淳志氏が選ばれた。庭を育み、絵を描き、丹念に暮らしを紡いできた井上氏を、時間をかけて丹念に撮ることで生まれた、静謐で説得力に満ちた作品は、生きることと写真のポリフォニーを奏でる。それはまた、井上氏が生まれた開拓時代の北海道と現在とを結ぶ表現でもあるだろう。

2010年に新設された飛彈野数右衛門賞は、毎年ノミネート数が増え続けており、賞が定着してきたことがうかがわれる。今年もまた、賞の性質の議論とともに審査が進行し、さまざまな意見交換を経て、奈良県生まれで、関西地方を撮影し続けている太田順一氏に決定した。ともすれば忘れ去られていくような、遺されたものや痕跡をとらえてきた太田氏の作品は、その土地独自の風景を、静かに浮かび上がらせている。

海外作家賞は、楠本亜紀氏の入念な調査に基づいた説明を踏まえたうえで審査に移り、対象国のオーストラリアから、ローズマリー・ラング氏が選ばれた。ラング氏は、オーストラリアの文化的、歴史的意味を内包したランドスケープをテーマに、詩的なイマジネーションをもとにした、インスタレーション、パフォーマンス、写真を融合したような作品を展開してきた。その作品は、多様な解釈を観者にゆだねる魅力に満ちている。

前述のように、難航した今回の審査だが、こうして決定してみると、国内4賞は、ここ数年の審査で名前があがっていた写真家が選ばれる結果となった。とりわけ、国内、新人作家賞は、作品発表年から3年間までを審査の対象としている東川賞ならではの決定となっている。また、審査の過程で、それぞれの賞の意味や位置づけも、あらためて深く議論された。これもまた、円卓を囲み、意見の食い違いはあっても、議論を尽くして決定していく、東川賞審査会らしい在りようだといえよう。

東川賞は、どのような賞で、どうあるべきなのか。審査会が真摯に議論を行う背景には、1985年の「写真の町宣言」からの、町の人々の多大な努力と、その趣旨に共感した世界中の人々の共感のエネルギーがあることは、いうまでもない。すばらしい環境を誇りにする東川町、そして、そこで開かれるフェスティバルの光景に導かれながら、議論を重ねる。ふりかえってみれば、今回の審査とその結果は、第35回という節目にふさわしい内容になったように思う。東川町の人々と共に、ここからさらに、新たな一歩を踏み出していきたい。

写真の町東川賞審査会委員 上野 修