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「GAKKOTEN 2023」レビュー結果発表

若い感性で切り取られる“今”を感じる写真を発表する場として、2019年よりスタートした屋外展示「GAKKOTEN~大学・専門学校屋外写真展~」。第5回目となる今年は7月29日から8月9日までの間、せんとぴゅあⅡ芝生広場にて大阪芸術大学、九州産業大学、東京工芸大学、日本大学、日本写真芸術専門学校の5校に出展いただき展示を行いました。
GAKKOTENでは、学生のみなさんにとってさらなる写真表現の向上につなげてもらうべく「写真の町東川賞」の歴代受賞者による作品講評の機会を設け、レビューコメントをお寄せいただいています。本年は4名のレビュワーから、各2名ずつ選出いただきましたのでその結果を発表いたします。

〈展示期間〉2023年7月29日-8月9日
〈会場〉せんとぴゅあⅡ芝生広場
〈出展校〉東京工芸大学、日本大学、日本写真芸術専門学校、大阪芸術大学、九州産業大学
〈レビュワー〉酒井広司、白石ちえこ、中村征夫、露口啓二、 ※順不同敬称略

 

酒井広司選

【選出作品】「砂丘」澤木日々-日本写真芸術専門学校

添えられた文章を読むとこれらの写真が「川」から派生したものなのが読み取れる。写真を見るというのはまず写されたものを認めることだと思うが、タイトル「砂丘」の通り砂丘らしき光景はない。極めて個人的な動機から撮影者は川へ行くことになりこれらの作品が生まれたことに共感できる。リアルな眼前の光景と撮影者の意識はわかり易く一致していない。その間の、齟齬のようなものを感じとろうと私は写真の前に立った。私がここに立っている偶然の時間を少し意識してみる。写真に写る「世界から反射してくるもの」が見えてきて、写真を体験したのであった。

 

【選出作品】「飲んで寝る、たまに仕事、西成」 秋野公希-大阪芸術大学

写真を撮影して作品にする。そして展示して人に見てもらうには、まず何を撮影するのか決めなければならない。秋野さんが選んだ被写体は大阪西成地区である。ドヤ街、あいりん地区、釜ヶ崎という語で連想できる場所だ。これだけラベルが貼られたところを、今撮影しに行くという動機に少し関心をもった。フィルムで撮ったようなトーンも20世紀的。ともあれ、人間が写った写真には引きつけられる。路上で横になる自由が誰にでもあり、西成では許されるのだ。これらの人々はどこへ行くのか、写真はどう展開されるのか知る由もないが、モノクロのプリントは私の目に記憶された。

 

 

白石ちえこ選

【選出作品】「観察」加藤美月-大阪芸術大学

おだやかに流れる川。河川敷でゲートボールをする人々、鉄橋がかかり、その向こうには小高い山々が連なっています。少し高いところから見下ろすアングルは広がりのある描写で、目は中心の「コト」からはじまり、風景を隅々までくまなく見つめます。 晴れた日、屋根の上に並んで干された二着の作業着は山々と雲を背景に風になびいて微かに揺れているようです。畑で作業する二人の目の前には、崩れた崖のように見える荒々しい斜面があります。そのギャップがどこかシュールさをかもしだします。作者は人々の日常の暮らしを中心に、アングルを広くして取り巻く風景をまるごとつかんで提示しています。大きな環境の中に小さく写る、人間のささやかな暮らしが愛おしく、少しユーモアも感じて、このシリーズの続きをもっと見たくなりました。

 

【選出作品】「真夜中の給水タンク」山内美空-日本大学芸術学部写真学科

雪の残る、さりげない住宅地のY字路からはじまる夜の散歩です。 家々の隙間から、星空を見上げるように、あるときは擬態したかのような窓をともなって、給水タンクと作者のひっそりとした親密な交感があります。 そばにあるのだけれど、普段、誰も気に留めない被写体からのシグナルを受けとめて、作者は物語を綴ります。闇は浅く、ピントは朧げで、夢遊病のように現実と妄想を行ったり来たりするイメージは見る者を物語に引き込んでいきます。 作者のやわらかで確かな眼差しを通して、日常をとりまく風景の要素から広がる、わくわくするような発見がありました。あなただけが気付いただろう足もとにある発見と物語を、また見せてもらいたいと思いました。

 

中村征夫選

【選出作品】「真夜中の給水タンク」山内美空-日本大学芸術学部写真学科 (※同 白石ちえこ選)

作品のテーマを探すのは困難を極める。「次はこれだ!!」と思いついてもすでに作品化されていることが多いからだ。これまで多くの写真集を見たり写真展巡りをしてきたが、給水タンクをテーマとする作品に出会った記憶がない。しかも宇宙船とは・・・。ユニークな発想に驚かされたが、様々なシチュエーションから狙っており、単写真としても見応えがあった。ただ、どの作品も地上からのポジションなので似たような構図となってしまったのは惜しい。給水タンクのサイズにも変化が見られないのは残念だ。マンションの管理人に掛け合い屋上から狙ってみるとか、あるいは望遠レンズを駆使しタンクのサイズに変化をつける。また宇宙船に例えるなら、おどろおどろしいまでに暗く不気味に、あるいはハレーション気味のタンクのアップなどがあってもいい。そうすれば、さらに作者の心象に触れられたのではないだろうか。

 

【選出作品】「蝉時雨が止む頃」 Guo Yutong-大阪芸術大学

何気ない日常の一コマを、さりげなく切りとった5枚組の作品。一点一点食い入るように眺めているうち、心穏やかになる感覚を覚えた。どの作品からも一貫して静謐な時間の流れを感じる。色彩感覚の巧みさにも感銘を受けた。身の回りのどこにでもありそうで見逃しがちな情景を、見事な構図と色彩センスで作品化している。落下し枯れつつある蘭の花びら、飛べなくなったのか道端に静止したままの蝶は、強烈な日差しと影の絶妙なコントラストの中で息絶えようとしている。修繕した跡(?)が見受けられるガラス窓の作品はとくに好きな作品だ。これらの作品から、美しかったものもいつかは朽ちていくという命の儚さは充分に表現されているが、5枚組の組み写真の中に散りゆく花の作品が2点あるのが気になった。作者の力量なら花は一点とし、優れた視点を生かした、これは?と、意表をつかされるような作品が見たかった。

 

露口啓二選

【選出作品】「OOPARTS」内海夏杜-九州産業大学

日常という言葉で表される慣れ親しむものに違和感をもち、もう一度距離を測りなおしてみる。これは写真表現には、重要な作業だと思うが、作者はその作業を、持て余しているようだ。しかし、その困惑は大事なことだと思う。そこに感傷を共有しない他社とのつながりの可能性があると思うからだ。船の窓に切断された島の風景。よそよそしいという訳ではなく、しかし背を向ける人たち。着た人の肌からはがしてきたかのような、しかし、単なるモノと化した洗たく物。まさに、バラバラのパートの群れを、どうやって構成するのか。作者が背負ってしまった作業は、単純であり、複雑な道程になるだろう。

 

【選出作品】「Mom Lost mon and what will I lose」 カク・エンジョウ―東京工芸大学芸術学部写真学科

カク・エンジョウ「Mom Lost mon and what will I lose」作者のふるさとだろうか。おそらく慣れ親んだ場所の湿気や温かさ、空間の肌触りが、4枚の写真からは伝わってくる。テーブルに広がって、積み上げられた食材を前に作業する婦人たちからも近しい距離が感じられる。はち植の植物からも、まるで友人との会話が聞こえてくるようだ。今日のように、写真表現が拡散し、ツールが多様化した時代では、生きる国や世代を超えて、写真行為がもつ問いはどこかでつながっていて、同時にバラバラでもあると思う。安易さと困難さが共存しているのだ。そう考えると、この4枚の写真が放つ力をどうやって 外につないでいくか、あるいは、つながらない世界を見極めるかという困難な作業が、作者をまちうけているように思う。

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