お知らせ
GAKKOTEN2024レビュー結果発表
若い感性で切り取られる“今”を感じる写真を発表する場として、2019年よりスタートした屋外展示「GAKKOTEN~大学・専門学校屋外写真展~」。第6回目となる今年は7月29日から8月8日までの間、せんとぴゅあⅡ芝生広場にて、日本大学、日本写真芸術専門学校、日本写真映像専門学校、専門学校東京ビジュアルアーツ・アカデミー、専門学校名古屋ビジュアルアーツ・アカデミー、大阪芸術大学、九州産業大学の7校に出展いただき展示を行いました。
今年のGAKKOTENでは、学生のみなさんにとってさらなる写真表現の向上につなげてもらうべく「写真甲子園」の審査委員による作品講評の機会を設け、レビューコメントをお寄せいただきました。写真家の鵜川真由子審査委員、大森克己審査委員、須藤絢乃審査委員、中西敏貴審査委員の計4名のレビュワーから、各2名ずつ選出いただきましたのでその結果を発表いたします。
鵜川真由子選
日本写真芸術専門学校 テイコウセンさん
まずは文章に惹かれました。美しい日本語の比喩が散りばめられていてその場の情景が浮かんでくるようです。写真にも文学的な要素があり、必ずしも文章と一致するわけではないけれど、絶妙な力関係で共鳴し合っているように思います。現代に生きる若者の肖像が昭和の純文学の登場人物のように感じられるのは、熱海という土地のせいなのでしょうか。彼らからはまるでこの物語のために存在しているかのような強いインパクトを受けたため、作者と被写体との関係性がどういったものなのかが気になりました。ある時代を思い起こさせるようなこの場所で繰り広げられる、湿気を帯びた物語の先をもっと見てみたいと感じています。
専門学校東京ビジュアルアーツ・アカデミー YANGLEI さん
静かで美しい描写に、ある種の不気味さを覚えました。こちら側とあちら側は一見繋がっているように見えるけれども、ガラス一枚を隔てているため決して繋がることがない。囚われの身となっている動物たちを生かすために人間が与えた環境は、自然界には存在しない異質な空間であると再認識させられます。妙に惹かれる場所としての魅力は観客へ向けたものなのか、動物のためのものなのか。タイトルの言葉選びが秀逸で、野生の思考をなくした動物たちが人間たちに愛でられるためだけに存在しているかのような物悲しさを感じました。それが彼らにとっていいのか悪いのかはわかりません。全体を通してまとわりつく疑問符が、作者の高い美意識とその中に滲むアイロニーによって視覚化され、熱量の高い作品になっていたと思います。
大森克己選
日本写真映像専門学校 川﨑廉斗さん
家族よりもちょっと広そうな、ともだちのような、でもともだちというには遠い人もいる、という不思議なコミュニティの手触りや熱量がしっかりと伝わってくることに好感が持てました。かけがえのない瞬間、その瞬間の光と影を捉える、という写真の根源的な機能をフルに活用しているのも良いですね。土地のアウラや力を感じる能力を幼い頃からこの場所で過ごして育んだ川崎さん。既に「日常」というものが実は「非日常」と連続していることに気がついていることと思います。若さという日常、実家という日常、男であるという日常、さまざまな日常を超えて次に見る景色がどんなものになるのか、とても楽しみです。技術的なことを一つだけいうと、縦位置のフレーミングの写真も見たい気がしました。例えば William Eggleston の写真集『5 x 7』のような。
日本写真映像専門学校 北口一香さん
貴いものとそうでないもの、高価なものと安いもの、大切なものとどうでもいいもの、それって一体なんだろう?と言う問いかけが、スティルライフという手法で、絶妙なユーモアとアイロニーをともなって伝わってくることがとても面白いです。自身(あるいはその美意識)の承認欲求ではなく、自分を客観視した上でのモチーフ(被写体)の選択もとても良いと思います。この作品の場合、それが母と娘との関係性から始まっているとのことですが、率直に言ってステイトメントは分かりづらいものでした。ただ、自分とお母さんとの関係性に潜んでいる何かがとても大切である、という直感はこれからも大事にして欲しいと思います。写真からは北口さん自身を感じられましたが、文章はまだよそ行き、というか。自分の興味のほんの少し外側にあるかもしれない、ちょっとだけ難しそうな本を背伸びして読むことにトライしてみるもの良いと思います。Instagram で拝見したイワシや鹿や走査線のシリーズにも可能性を感じました。
須藤絢乃選
日本大学芸術学部写真学科 京藤和さん
普段観光地として親しまれているであろう「水仙ランド」が一つの家族のコミュニティーによって営まれているという事実に着目されたのが制作の出発点としてとても評価できるものかと思います。加えて15人家族というのも現代の日本で特殊な部類に入る構成ですし、知らない世界を覗かせていただいてる気分になりました。ステイトメントの文章から受けた驚きを作品の中にもう少し溶け込ませることができればより京藤さんの作家としての力強さが出てくるかと思います。丁寧に撮影を進めているのは伝わりますが、京藤さんの持つこの家族への興味や視点もっと出せる可能性を感じますので、これからもこの家族を訪ねる回数を重ねて、撮影を続け、京藤さんしか絶対に撮れないシーンを発見していって欲しいです。プリントの仕上がりはニュートラルなストレート写真という印象受けましたので、京藤さんならではの美意識を意識して現像や編集方法を実験しても良いのかなと思いました。今回の作品で印象に残ったのは、犬の写真と、赤ちゃんが振り返っている写真でした。しかし、一見写真全体を見ると、写真作品としての個性が見えずらく、せっかくの面白い題材や対象が見る側に一瞬にして伝わりにくいというのが勿体無い気持ちもありました。一目見て忘れられないアイコニックな一瞬をぜひ残していってください。これからも作品を楽しみにしております。
専門学校名古屋ビジュアルアーツ・アカデミー 森愛富さん
「鳥羽の火祭り」は地元では有名なお祭りで沢山の見物客も来られる催しだと思いますが、実際の賑やかさを忘れてしまうような、まるで森の中でひっそりと秘密裏に行われている、エネルギー溢れる儀式のように見えてきます。フレーミングや撮影技術の高さももちろん、森さんの表現したいビジョンがしっかりとあり、それを表現できる人だと感じました。ドキュメンタリー的なモチーフにも関わらず、手の込んだハイエンドなアニメのシーンにも見えてきて、写真表現の新しい可能性を感じることができました。私はこのお祭りを知らなかったのですが、作品を見て独特な装束も含め、興味が強く湧き、実際に見に行ってみたいとも思いましたが、これほどまでに世界観のある写真を見ていると、もはや実物よりこの作品の方が印象のリアリティがあるのでは?とも思わせる作品です。森さんのこれからの作品を楽しみにしています。
中西敏貴選
大阪芸術大学 秋野公希さん
作者がなぜこの島を撮るようになったのかを想像しながら作品を拝見しました。タイトルにある奇跡という言葉の意味を探るように見ていると、この島の歴史的背景が浮かび上がってくるような感覚がありました。かつての痕跡と現代の風景を重ね合わせて、この島と人との繋がりが浮かび上がってくるようにも感じます。今回は少ない枚数での展示でしたが、さらに重層的な枚数で拝見したい作品です。そうすることで、この島にどんな奇跡があるのかが見えてくるようにも思います。島のドキュメントとして表現するだけではなく、ここから日本という国を考えるスケールの大きなプロジェクトにしてほしいと感じました。
専門学校名古屋ビジュアルアーツ・アカデミー 本多諒成さん
野生動物撮影のフィールドとして北海道は人気です。しかし、北海道には本当の自然は残っているでしょうか。そもそも自然とはなんでしょうか。常々から北海道で撮影していると、大自然という言葉に違和感を感じます。たとえ北海道であっても、もはや本物の自然は残されていないのかもしれません。作者はきっとそんな違和感を感じたのでしょう。かつてこの大地に都市が形成されていなかった時代は、 野生動物はどんな生き方をしていたのでしょうか。この作品をより拡張していくには、そういった批評性が必要になってくるかもしれません。動物を美しいと見るだけではない視点が含まれることを期待します。