AWARDS東川賞

国内作家賞

原 美樹子
HARA Mikiko
神奈川県在住

受賞理由

写真集『Small Myths』(Chose Commune、2022年)に対して

1967年富山県生まれ。’90年慶應義塾大学文学部卒業、’96年東京綜合写真専門学校研究科卒業。専門学校時代の課題のストリートスナップをきっかけに、しばしばノーファインダーというカメラのファインダーを覗かずに撮影する方法を用いながら、現在まで一貫して独自のスタイルで日常を切り取り続けている。

自身が偶然そこに居合わせた目の前の光景を「なるべく変質させることなくそのままとらえようとした」だけで、「多くのことはカメラに委ねています」と、’30年代のドイツ製フィルムカメラ「イコンタ」を胸からぶら下げ、三人の子供の子育てをしながら、日々の生活の中で出会ったありふれた光景――人、風景、モノを撮影している。写真家としてというより、日常に根ざした生活者の視点が強く見受けられるが、その写真のいずれもがつかみどころのない、言葉では説明しがたいものばかりである。「誰かが“写真は問いを生む”と言っていたのを覚えていますが、そういう禅問答をやっているような感覚がずっとあって」と語り、当たり前の日常の尊さ、慈しみさえ感じられる独特なスナップショットである。

’96年に初個展「Is As It」(ギャラリー・ル・デコ、東京)を開催。同年、第13回キヤノン写真新世紀展佳作、第8回写真『ひとつぼ展』に入選する。また、’07年の個展「Blind Letter」 Cohen Amador Gallery (ニューヨーク)以降、海外でも注目を集め、’14年には長野重一、森山大道、瀬戸正人との四人展 「In Focus: Tokyo」(ゲティ美術館、ロサンジェルス)に出品した。海外で個展、グループ展に参加する一方、国内では’19年のグループ展「対話のあとさき」(横浜市民ギャラリー)で多くの最近作を発表。写真集に『Hysteric Thirteen: Hara Mikiko』(ヒステリックグラマー、’05年)、『These are Days』(オシリス、’14年)などがあり、’17年には『Change』で第42回木村伊兵衛写真賞を受賞。そして、昨年、’96年から2021年までの作品で構成された写真集『Small Myths』が、フランスのChose Commune から出版された。

 

作家の言葉

この度は、東川賞国内作家賞という身に余る賞を頂き、光栄に思うと同時に背筋が伸びる思いです。心より御礼申し上げます。

受賞対象となった『Small Myths』は、初期から2000年代までの作品を中心に構成されており、自身の写真を振り返る契機にもなった写真集でした。

これまで、カメラでささやかに世界と向き合い、気付くと、生きていることと写真を撮ることとがどこか分かちがたくなっていました。私自身の思考は拙いにもかかわらず、カメラはそれでも像を結び、そうした像の連なりから、写真を観てくださった方々が、その方自身の来し方、経験、記憶に呼応した何か、確かめられはしないけど、確かにそこにあるような何かを感じ取ってくださったことが、結果、写真家としての私を成り立たせてくれています。

私の日々をこれまで支えてくださった皆様に心からの敬意を。そして、私と共に在ってくれた家族に感謝を。

原 美樹子

Untitled, 2006
Untitled, 2007
Untitled, 2008
Untitled, 2018
Untitled, 2006
Untitled, 1996