AWARDS東川賞

新人作家賞

笹岡啓子
SASAOKA Keiko
東京都在住

受賞理由

小冊子シリーズ『SHORELINE』(KULA、2015年〜継続中)、写真集『Remembrance 三陸、福島 2011-2014』(写真公園林、2021年)に対して

1978年、広島市生まれ。’02年、東京造形大学卒業。広島に育ち、街を離れたことから、歴史的な街(広島)の内側と外側を見つめる。その経験が、多くの作品に影響を与えている。

日本各地、津々浦々を歩き、長い時間をかけ隆起と変動を繰り返してきた海岸線と釣り人を写した「Fishing」で「VOCA展2008」VOCA奨励賞受賞。’01年から広島平和記念公園とその周辺を撮影し、’09年に刊行した写真集『PARK CITY』(インスクリプト、’09年)で、’10年度日本写真協会賞新人賞を受賞。8名の写真家の東日本大震災をテーマにした作品を紹介した「ニコンサロン連続企画展『Remembrance 3.11』」(銀座/大阪ニコンサロン、’12年)で、「Difference 3.11」を発表。写真から見られる被害のあり方の違いや、それぞれの地域の地理的な差異と同時に、思い出し続けることが大事だという想いを示し、’12年にさがみはら写真新人奨励賞を受賞する。その後、東日本大震災後、福島を含めた被災地域などの風景を収めた不定期刊行の小冊子『Remembrance』(KULA、’12-’13年、全41号)で、第23回林忠彦賞(’14年)を受賞。’15年からは東北の被災地域だけでなく、日本各地の海岸線や海の記憶をもつさまざまな地域を撮影した後続シリーズの小冊子『SHORELINE』(KULA、1~42号)を刊行し、展覧会とあわせて発表を続けている。

’01年にスタートした写真家たちによる自主運営ギャラリー「photographers’ gallery」には設立当初から関わり、レクチャーの開催、機関紙や写真集の発行、エッセイ、批評などの発信など、多岐に渡る活動を行っている。機関紙『photographers’ gallery press』の編集にも携わり、第12号(’14年)では編集責任として広島の原爆写真を検証・考察する「爆心地の写真 1945-1952」を特集した。

震災の復興へと向かう現在進行形の場所に撮ることで向き合う一方、初期からのテーマである海岸線や火山など、地勢や地表が刻むその土地の過去や経過にも関心を寄せ、写真を通した様々な試みを続けている。

作家の言葉

2010年の東川町フォトフェスタを訪れたことをきっかけに、はじめて旭岳に登りました。以来、大雪山の荘厳な佇まいに魅了された私は、幾度か再訪し、日本各地の山々へも向かうようになりました。翌年起こった東日本大震災により、それまで自分のメインフィールドでもあった海岸線は別の貌を持つ場所であったことに気づかされ、以降頻発する数々の自然災害のたび、この列島で生きることがいかに脆く危ういことかを思い知らされています。

震災から10年を経た今年、自然と共に生きることの困難と礼賛とを教えてくれた東川町の写真新人賞をいただけることは感慨深く、身に余る光栄です。同時にこの10年余りの列島の姿が部分的であっても写真として後世に残され、僅かでも未来に役立つとすればこのうえない喜びです。

笹岡啓子

「Remembrance」より
2011年
「Remembrance」より
2011年
「Remembrance」より
2011年
「Remembrance」より
2013年
「SHORELINE」より
2011年
「SHORELINE」より
2019年