AWARDS東川賞
海外作家賞
受賞理由
『On Your Knees』(2017年)、『Backdrop』(2018年)、
『The Lost Gaze』(2019年〜)など、一連の作品に対して
1972年、ペルー・リマ生まれ。リマ大学コミュニケーション学部を卒業後、コピーライターとして、広告業界で働いた後、写真作品の制作を始める。情報を伝えるメディアとしての写真が、歴史を変えられるかということに興味をもち制作している。リマ、サンフランシスコ、マドリードを行き来しながら活動している。
曾祖父が、鉄道建設のためにペルーに来たイギリス人技師で、アマチュア写真家だった。彼の撮った写真を複写しているうちに、彼の見方を盗んでいるような気持ちになり、写真を使った作品の可能性を見出す。同じ頃、’60年代に制作されたポルノ本の撮影も始め、写真を再撮影することによって、物語が変化することに気づき、男性目線で撮られたポルノ写真のイメージを再構築した作品「ひざまづけ」を’17年に発表。
’18年、祖母から譲り受けた百科事典を見て、子供の頃、本の中に女性の姿が少ないことに衝撃を受けたことを思い出す。それから、撮影者の意図なしに、本の中に背景として登場する偶然通りかかった女性たちを再撮影し、主役として再配置する「背景」を発表。
’19年からスタートした「失われた視線」でも、祖母の蔵書の美術書を使用。西洋美術史の中に描かれてきた女性像を女性の元に取り戻そうと試み、そこで描かれてきた女性を男性の視線から遠ざける必要性を提示した。
主な個展に、「ひざまづけ」(Pinakothek Der Modern、ミュンヘン、’22年)、「継承」(ルイス・ミロ・ケサダ・ガーランド・ギャラリー、’19年)、主なグループ展に、「REFRAMED」(フロリダ写真美術館、’21年)、「OSMOSCOSMOS」(国立写真センター、ジュネーブ、’19年)、「’19サンタフェ・センター賞受賞作家展」(ピクチャー・ギャラリー、インディアナ、’19年)、「’19 Plat(T)Form,」(ヴィンタートゥール写真美術館、’19年)、主な受賞に、ブタペスト国際写真祭’19・ファインアートブロンズ賞(ハンガリー)、’19サンタフェ・センター賞・3位(米国)、ルーセス賞’19年ベスト写真展(ペルー)がある。
作家の言葉
私は、写真が教えてくれることを共有する仕事をしています。立ち止まって空間と時間を見つめることは、イメージの中の一瞬を確認するもの以上であり、意識のテストでもあります。それぞれの写真には、私たちが立ち止まって自分自身を見ることを可能にする個々の視線という点で、魔法がかかっています。この創造的なプロセスは、個人的でありながら、同時に理解しやすく、私たちが違いを超えてコミュニケーションをとることを可能にしてくれます。それぞれの写真、それぞれの個人的な視点は、普遍的な真実、つまり私たち全員が同じ言語を話すことができる真実に貢献するものです。
空間や時間の複雑さは、イメージを超えたところにあり、写真に隠されているものを発見するのは困難です。他者への視点を理解することで、視野が広がり、発言力が増すと思うのですが、時に孤独に陥ることがあります。それは、宇宙船に乗っていて、誰とも共有せずに何かを発見するようなものだと思います。
今回の受賞は、感動している向こう側の声を聞くようなものです。 それは、私とは非常に異なる宇宙から、非常に洗練され価値のある文化から発せられた声であり、より特別なものに感じられます。
このような重要な評価をいただき、また、私の作品に耳を傾け、祝福していただき、ありがとうございます。今年、東川賞海外作家賞を受賞し、この賞の歴史の一部になれたことは、私にとって大きな名誉です。
アストリッド・ヤーンセン