AWARDS東川賞

第37回写真の町東川賞 受賞者

海外作家賞

莫毅(モ・イー)
Mo Yi
中華人民共和国/浙江省在住

国内作家賞

瀬戸正人
SETO Masato
東京都在住

新人作家賞

岩根愛
IWANE Ai
東京都在住

特別作家賞

白石ちえこ
SHIRAISHI Chieko
東京都在住

飛彈野数右衛門賞

中野正貴
NAKANO Masataka
東京都在住

第37回審査会委員

安  珠[あんじゅ]写真家
上野 修[うえの・おさむ]写真評論家
神山亮子[かみやま・りょうこ]学芸員、戦後日本美術史
北野 謙[きたの·けん]写真家
倉石信乃[くらいし·しの]詩人・写真評論
柴崎友香[しばさき・ともか]小説家
丹羽晴美[にわ·はるみ]学芸員・写真論
原 耕一[はら・こういち]アートディレクター

<敬称略/五十音順>

第37回写真の町東川賞審査講評

第37回写真の町東川賞審査会は、2021年3月3日に開催された。今年ノミネートされたのは、国内作家賞73名、新人作家賞88名、特別作家賞26名、飛彈野数右衛門賞38名、海外作家賞29名。コロナ禍によりノミネート数が減少するかと予想されたが、蓋を開けてみれば昨年から約1割の増加となった。

例年どおり、午前中は写真集や資料をじっくりと閲覧した。午後から、合計205名の作家より、5つの賞を選ぶ審査に入った。今年は審査委員2名が欠席し、事前に推挙した候補者を審査に反映させていった。

国内作家賞は最終段階で三つ巴の接戦となり、議論と投票の結果、瀬戸正人氏に決定した。日本人の父とベトナム人の母の元に生まれ、タイと日本を行き来しつつ、アジア各地の人々の日常・風土・社会を捉えた半世紀以上の活動を編んだ展覧会『記憶の地図』は、「記録」のみならず「記憶」を紡ぐメディウムとしての写真を照らし出すものでもあった。デビュー作の「バンコク、ハノイ1982-1987」から最新作「Silent Mode2020」にいたる各シリーズの、趣向を凝らした展示も大きく評価された。

毎年、混戦かつ激戦となっている新人作家賞は、岩根愛、齋藤陽道、田川基成、林典子、水谷吉法、山元彩香の各氏が最終段階まで残り、議論と投票を繰り返した結果、岩根愛氏が選ばれた。写真集『KIPUKA』、書籍『キプカへの旅』、緊急事態宣言下の春に撮影した新作を含む展覧会「あしたのひかり 日本の新進作家vol.17」など、トータルな活動が決め手となった。伝統的な写真のドキュメントの手法を踏まえつつ、その枠組みを超えていくダイナミックな展開は、まさに新人賞にふさわしいものであろう。

特別作家賞には、冬の北海道、道東の光景を、独特なモノクロームのトーンのなかに封じ込めた写真集『鹿渡り』を制作した、白石ちえこ氏が選ばれた。浜辺を飛んでいく渡り鳥や、凍った湖を渡るエゾシカの群れが浮かび上がらせる静謐な自然は、土地の固有性を物語る。北海道をテーマ・被写体とした作品を撮ったという、特別作家賞の規定にぴったりと合致する作品であるといえよう。

飛彈野数右衛門賞に選ばれたのは、一貫して東京を撮り続けてきた中野正貴氏である。集大成展「東京」が開催されたのは2019年だったが、誰もいない東京の姿を写した代表作『TOKYO NOBODY』などが捉えた光景が、コロナ禍によって、また新たな意味を孕むことになったことが話題となった。時代による意味の変化を映し出すのも写真の独自性であり、長年にわたり地域を撮り続けた作品を対象とする飛彈野数右衛門賞の意義を再確認する機会にもなった。

海外作家賞は、菅沼比呂志氏の入念な調査に基づいた説明を踏まえたうえで審査に移り、対象国の中国から、莫毅氏が選ばれた。従来の写真のあり方を転覆するような作品は、中国におけるオーソドックスな紀実写真から観念紀実写真への転換を体現するものでもある。写真をメディウムとして用いつつ、ビジュアルな実験を繰り返してきた一連の活動が評価された。

例年は、円卓を囲んでの審査だったが、緊急事態宣言下での開催となった今年は、感染症対策として、広い空間で大きなテーブルをはさみ、マスクをつけての審査となった。とはいえ、議論を尽くして決定していく過程に、まったく変わりはない。昼食が審査会場で弁当となったこともあり、その時間も含め、熱心に資料を閲覧する審査員も多かったことを書きとめておこう。

コロナ禍の年として記憶されるであろう2020年は、写真やカメラにとって逆風となるような出来事も少なくなかった。そんな中でも、例年どおり無事審査が行われたのは、1985年の「写真の町宣言」から今日に至るまでの、歴史の厚みの賜物だろう。いうまでもなく、それは、東川町の人々の多大な努力と共感があってのことである。例年にも増して、東川町の人々への感謝の気持ちが込み上げてきた今年の審査を、忘れずにいたい。

 

写真の町東川賞審査会委員 上野 修