AWARDS東川賞

第36回写真の町東川賞 受賞者

海外作家賞

グレゴリ・マイオフィス
Gregori MAIOFIS
ロシア/サンクト・ペテルブルク在住

国内作家賞

長島有里枝
NAGASHIMA Yurie
東京都在住

新人作家賞

上原沙也加
UEHARA Sayaka
沖縄県在住

特別作家賞

髙橋健太郎
TAKAHASHI Kentaro
東京都在住

飛彈野数右衛門賞

鬼海弘雄
KIKAI Hiroh
神奈川県在住

第36回審査会委員

安  珠[あんじゅ]写真家
上野 修[うえの・おさむ]写真評論家
北野 謙[きたの·けん]写真家
倉石信乃[くらいし·しの]詩人・写真評論
柴崎友香[しばさき・ともか]小説家
丹羽晴美[にわ·はるみ]学芸員・写真論
原 耕一[はら・こういち]アートディレクター
光田由里[みつだ・ゆり]美術評論家

<敬称略/五十音順>

第36回写真の町東川賞審査講評

第36回写真の町東川賞審査会は、2020年2月13日に開催された。今年ノミネートされたのは、国内作家賞57名、新人作家賞66名、特別作家賞28名、飛彈野数右衛門賞28名、海外作家賞26名。例年どおり、午前中は写真集や資料をじっくりと閲覧、検討し、午後から合計181名の作家より、5つの賞を選ぶ審査に入った。今年は審査委員1名が欠席したが、事前に推挙した候補者を審査に反映させていったので、事実上8名全員での審査となったといっていいだろう。

昨年に続き、今年も国内作家賞は最終段階で票がきれいに割れた。議論と投票を繰り返した結果、膠着状態から選ばれたのが、長島有里枝氏である。2017年から2019年にかけて開催された、東京都写真美術館での「そしてひとつまみの皮肉と、愛を少々。」、ちひろ美術館での「作家で、母で、つくる育てる 長島有里枝」、横浜市民ギャラリーあざみ野での「知らない言葉の花の名前 記憶にない風景 わたしの指には読めない本」の3つの大規模展における、従来の社会、表現、家族や、その関係性などをラディカルに問いかける独自の表現の探究と創造性は比類がなく、また、「発表年度を過去3年間までさかのぼり、写真史上、あるいは写真表現上、未来に意味を残すことのできる作品を発表した作家を対象」とする国内作家賞の規定にぴったりと合致するものである。

毎年、激戦となっている新人作家賞は、最終段階で上原沙也加、山元彩香の両氏の一騎打ちとなり、僅差で上原氏に決定した。一見きわめてオーソドックスだが、これまでの沖縄の写真へのリスペクトとアップデートを孕んだ、日常的な風景のスナップショットが高く評価された。対象となった展覧会「The Others」は、写真プロジェクト『沖縄写真タイフーン〈北から南から〉』に連動して開催されたものだが、まさに静かな台風の目が、南から北へ届いたともいえよう。

特別作家賞は、1941年、旭川の旭川師範学校美術部の教師や教え子らが弾圧された「生活図画事件」で投獄された当事者、松本五郎氏と菱谷良一氏のところへと通い、彼らの日々の生活にレンズを向けた髙橋健太郎氏が選ばれた。押収された絵画や本は戻らず、残っていたのはモノクロフィルムに記録された絵の写真のみだという。そうした過去と現在を、写真で紡いでいった展覧会「赤い帽子」は、事件はまだ終わっていないことの証でもある。

飛彈野数右衛門賞には、数十年にわたり、東京の人と風景を撮り続けてきた鬼海弘雄氏に決定した。浅草寺の同じ背景で撮影された市井の人々の肖像、東京を丹念に歩いて撮影された市井の人々の日々の営為が浮かび上がる風景は、東京もまた、まぎれもなくひとつの地域であることを照らし出す。地域の人・自然・文化などを撮り続けた仕事を対象とした同賞に、まことにふさわしい作品だろう。

海外作家賞は、楠本亜紀氏の入念な調査に基づいた説明を踏まえたうえで審査に移り、対象国のロシアから、社会的・政治的状況などを風刺的に表現する『Proverbs』などを発表してきた、グレゴリ・マイオフィス氏が選ばれた。ヘッドセットを通してしか世界を見ることができない人々をテーマにした、最新作「Mixed Reality」シリーズに至るまで、フィクションと現実の間を、アイロニカルかつウィットに富んだまなざしで捉える表現が一貫している。

円卓を囲み、作品の評価から賞の性質まで、議論を尽くして決定していく密度の高い時間が、毎年の東川賞審査会の光景だ。もちろん、意見の食い違いもあり、結論が出るわけではない。しかし、このように毎年更新されていく、傾向なき傾向こそが東川賞の特徴であり、東川賞審査会らしい在りようだといえるだろう。1985年の「写真の町宣言」から、2014年の「写真文化首都」宣言を経て、前進し続けている東川町の人々の多大な努力と共感のエネルギーに導かれながら、東川賞もまた変化し続けている。

写真の町東川賞審査会委員 上野 修