AWARDS東川賞

第34回写真の町東川賞 受賞者

海外作家賞

マリアン・ぺナー・バンクロフト
Marian Penner Bancroft
カナダ・バンクーバー在住

国内作家賞

潮田登久子
USHIODA Tokuko
東京都在住

新人作家賞

吉野英理香
YOSHINO Erika
埼玉県在住

特別作家賞

大橋英児
OHASHI Eiji
北海道札幌市在住

飛彈野数右衛門賞

富岡畦草
TOMIOKA Keiso
神奈川県在住

第34回審査会委員

上野 修[うえの・おさむ]写真評論家
北野 謙[きたの·けん]写真家
楠本亜紀[くすもと·あき]写真評論家·キュレーター
柴崎友香[しばさき・ともか]小説家
中村征夫[なかむら·いくお]写真家
丹羽晴美[にわ·はるみ]学芸員・写真論
原 耕一[はら・こういち]アートディレクター
光田由里[みつだ・ゆり]美術評論家

<敬称略/五十音順>

第34回写真の町東川賞審査講評

第34回写真の町東川賞審査会は、2018年2月27日に開催された。今年ノミネートされたのは、国内作家賞50名、新人作家賞59名、特別作家賞24名、飛彈野数右衛門賞34名、海外作家賞20名。より多くの方々からノミネートしていただこうと、推薦者リストの拡充をすすめており、ここ数年は、合計約160~170名の作家から、5つの賞を選ぶ審査となっている。対象となる作品も膨大な数になっており、今年も例年どおり、8人全員の審査委員が、午前中に写真集やポートフォリオなどをじっくりと閲覧し、午後から審査に入った。

今回の審査で、もっとも議論を重ねたのが、国内作家賞だった。最終的に残った候補作家のなかから、膠着状態を破り決定したのが、潮田登久子氏である。近年出版された『みすず書房旧社屋』『本の景色』『先生のアトリエ』という3冊の写真集と出版記念写真展に凝縮された、20年以上にわたって撮り続けている「本の景色/BIBLIOTHECAシリーズ」の深い説得力は、練り上げられたモノクローム表現のたまものである。本という紙のメディアが、写真という紙のメディアに表現されることによって、時間と空間が織り成す迷宮のような、果てしない魅力が浮かび上がっている。

新人作家賞は、石川竜一、片山真理、金川晋吾、細倉真弓、吉野英理香の各氏が最終段階まで残り、吉野英理香氏が選ばれた。昨年も最終段階まで残った写真集『NEROLI』と、同作に新作の「MARBLE」を加えた展示が対象となっての決定である。一年という時を経て、いっそうの注目を集めたということは、新しさだけにとどまらない作品の魅力の証左でもあるだろう。オーソドックスなスナップショットの技法を身体化しつつ、そこから限りなく自由であろうとする、強く儚くしなやかな吉野氏のまなざしは、瞬間と光を紡ぎ、独特の世界を照らし出している。

特別作家賞は、北海道生まれで、自動販売機のある風景を撮り続けている、大橋英児氏に決定した。自動販売機は、とても身近で、ありふれたものだが、それだけにかえって意識して見ることがない。こうして作品化されることで、改めて出会う自動販売機は、とても新鮮だ。とりわけ、雪のなかの自動販売機は印象的であり、北海道生まれの大橋氏だからこそ見出すことができたモチーフであるように思われる。写真集『Roadside Lights』『Being there』に編まれた、自動販売機は、どこか懐かしくもあり、また、日本の社会や文化を物語るものでもある。

2010年に新設された飛彈野数右衛門賞は、ノミネート数もぐっと増え、賞が浸透するとともに、激戦になってきている。また、新しい賞だけに、毎年、賞の性質も議論されているが、今年は、戦後の焼け跡時代から東京を定点観測し続けている、富岡畦草氏に決定した。二代目富岡畦草・富岡三智子氏、三代目富岡畦草・鵜澤碧美氏へと引き継がれている定点観測は、記録の厚みと広がりを増し続けている驚くべき仕事であり、「長年にわたり地域の人・自然・文化などを撮り続け、地域に対する貢献が認められる者」を対象とする同賞の精神を、体現するものでもあるだろう。

海外作家賞は、楠本亜紀審査委員の入念な調査に基づいた説明を踏まえたうえで審査に移り、対象国のカナダ・バンクーバー地域から、マリアン・ぺナー・バンクロフト氏が選ばれた。バンクロフト氏は、個人的な経験や、家族史に端を発する独創的な表現で、カナダにおける移民社会の歴史や、ファーストネーションにとっての聖地やテリトリーの意味を問いかけるシリーズなどを展開してきた。最近では、身近にあるが本来は外来種である植物をクローズアップで捉えた「radial systems」シリーズを制作している。

前回に続き、今回の審査でも、満場一致や大きな票差で決定された賞はなく、円卓を囲み、投票を繰り返し、多角的な意見交換と議論を重ねながら、各賞が決定された。昨年は3人、今年は2人、8人中5人の審査委員がこの2年で入れ替わったわけだが、それぞれの意見の食い違いはあっても、議論を尽くして決定していく、東川賞審査会の伝統的なスタイルは、しっかりと継承されている。こうして審査に取り組むことができるのも、1985年の「写真の町宣言」から30余年、一歩一歩積み重ねた町の人たちの努力に支えられていることを実感し、深く感謝する次第である。審査会は、「写真文化首都」にふさわしい、素晴らしい作家たちを選出できたと自負している。受賞した素晴らしい作家たちを加え、東川町の人々と共に、さらなる一歩を踏み出していきたい。

写真の町東川賞審査会委員 上野 修